漫画家のナツコが丁寧に生きる毎日の記録。『ツユクサナツコの一生』益田ミリ
※この記事はだいぶネタバレを含みます。
今回紹介するのは、小説ではなくて漫画です。
益田ミリさんは『すーちゃん』や『結婚しなくていいですか。 すーちゃんの明日』で有名なイラストレーター。私も学生時代から好きで、よく読んでいた。
ナツコは32歳の漫画家で、昼はドーナツ屋で働き、隙間時間で漫画を描いている。コロナ禍の飲食店で働くのは大変だけれども、日々のふとした楽しさとか人の愛しさとかを感じながら、生活をしていた。
ツユクサ(露草)とは、小さな青い花弁で、朝咲いて昼にはしぼんでしまう、はかない花だ。最初のページにわざわざ丁寧に説明が書いてあった。
通りすがりの小学一年生のことを、「口に入れたばかりの真新しいガム」と例えたり、常連のおじいさんの変化に気づいたり、日常の些細なことが描かれている。
益田ミリさんはこういう、言われなければ忘れてしまいそうな、日常の細やかなことを描くのがとてもうまい。それを読んで、「だから何だ」と読者に思わせないところがすごい。
ナツコの死因は語られていない。私の勝手な考察だが、よくニュースで見られる過労で死んでしまう若い漫画家さんと、コロナ禍で亡くなってしまった人たちとを重ね合わせているように感じた。ここ数年、たくさんの悲しい訃報があった。ニュースにはならなかった誰かの死もたくさんあっただろう。そんな悲しみをナツコに投影させているように感じられた。
この作者の他の作品にはない感じの終わり方だったので、読んでいてびっくりした。けど、いつも通り、素敵なセリフがいたるところに散りばめられていた。「人生で大切なことって帰りたいとこに帰れることや」、「読む前と読んだあとではわたしの世界の質量はちょっと違う気がする」。そうそう、わかる〜って、普段言葉に言い表せないことが書かれていて、本書を読むと世界の質量が少し違う気がする。
ハードカバーの紙の質感がとても触り心地が良くて、ずっと本棚に並べておきたい本だった。