spin
番外編

実質無料(タダ)の文芸雑誌『スピン』

 私はこれまでの人生で文芸雑誌をあまり買ったことがない。大体、好きな作家の小説を読むときは、単行本や文庫本が出版されてから読むからだ。たまに、好きな小説家の小説を早く読みたくて買うときもあるが、両手の指で数えられるくらいの回数だ。

 そんな私が毎号欠かさず文芸雑誌を買い始めた。『スピン』という雑誌で、河出書房新社から出版されている。私にとって河出書房新社は、綿矢りさや山田詠美といった私の好きな作家を発掘した「文藝賞」のイメージが強い。あとは、私の推し声優である斉藤壮馬を文庫本の表紙に起用した神のような出版社である(もちろん全巻持っている。読者特典のポストカードも応募した)。要するに、私にとってめちゃくちゃ好感度の高い出版社だ。

 この『スピン』という雑誌、毎号斉藤壮馬の連載を掲載するというではないか。よくわかっていらっしゃる! 刊行当初、私は心の中で拍手をした。頭の上でライブの銀テープが舞っている気分だった。斎藤さんは読書好きで、自身も『健康で文化的な最低限度の生活』というエッセイ集を出しているのだ。しかも、彼は早稲田大学文学部に通っていた。この経歴で書かないわけないでしょ。

 それからというもの、私は当然一号からこの雑誌を購読している。この雑誌は毎回紙質にこだわっており、手触りが楽しめるのもよい。恩田陸や一穂ミチなど、毎回有名作家が寄稿しているにも関わらず、一冊300円! 私は初めて値段を見たとき、目を疑った。3000円の間違いでは? 利益は出ているのでしょうか。

 その昔、私がアルバイトをしていたころ、よく時給を漫画の値段に換算して労働に耐えていた。500円で一冊、1000円で2冊。今日あと何時間がんばったら、漫画が何冊買える……! そんなふうに、労働に耐えていた。

 それなのに、300円……。そんなわけで、私は『スピン』を実質タダの雑誌と呼んでいる。

 この実質タダの雑誌では、斉藤さんは毎号「書を買おう、街へ出よう。」というエッセイを連載している。読書家のみなさんは寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』を思い浮かべたことだろう。しかし、斉藤さんは書を買いに行くんです。書店に行って、気になった紙の本を買いに行くというこの企画。毎回、全然知らない本を買っているので興味がそそられる。本を買うという行為の合間に、斉藤さん自身のエッセイが書かれている。とてもありがたい。

 また、エッセイだけではなく、たまに短編小説も寄稿している。特に私が好きなのは二号に掲載されていた「月の眼の緑」だ。私は脳内で、この作品に登場する教師を作者に変換してしまった。CV斉藤壮馬で再生されるのだ。自分で書いていて、本当に気持ち悪いオタクだなと思う。そんな気持ちに共感できる夢女子は、この小説を読むべきだと思う。

 斉藤さんの作品の他で好きな作品は、四号に掲載されていた坂崎かおる先生の『ニューヨークの魔女』。これぞ小説って感じの小説だった。なんというか、昔の名作とか語り継がれた童話を読んでいるような、そんな感じの作品。七号の『魔法をさがして』という相川英輔先生の短編も面白かった。あと、好きな漫画家のはるな檸檬先生が寄稿している号もあって嬉しかった。

 そんなふうに、好きな作家の作品が楽しめるのはもちろん、今まで触れる機会がなかった作家の作品を読む機会が作れる雑誌だ。300円というお手頃な値段なので、次に何を読もうか本を探している人におすすめ。

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