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ミステリー

隠された一面にゾッとする!宿野かほる『ルビンの壺が割れた』

 隠された一面にゾッとする! 宿野かほる『ルビンの壺が割れた』

 ルビンの壺は、一枚の絵の中で白い部分と黒い部分とで見え方が違う一種のトリックアートだ。表紙の絵を見た限りではどういう話だかわからなかったが、一ページ目から引きつけられた。

 ある中年男女のSNS上でのやりとりで、物語は進む。インターネットを始めたばかりだという水谷一馬は、SNSで見つけた元婚約者の未帆子にメッセージを送る。初めの何通かは無視をしていた未帆子だったが、一馬が数通送った後、返事をするようになる。

 物語の冒頭では、結婚が破談になった二人の懐かしい昔話だなぁと思う。ここからどうミステリー的展開になるのだろう。面白いと有名な本作に期待を膨らませながら読み進めていくと、だんだんと不穏な空気が混じってくる。

 大学生の頃の一馬は真っ直ぐな青年で、演劇部の部長でもあった。しかし、好青年であったはずの元婚約者に対して、未帆子はどことなく冷たい。読者の私も一馬のメッセージを読んでいるうちに、その、真っ直ぐさがだんだんと気持ち悪くなってくる。

 終盤、ある事実が明かされる。一馬と未帆子で見えている世界が全然違ったんだなと思った。何か喧嘩などがあったときに、一方の意見だけではなく、他方の意見に耳を傾けないと客観的な判断がつかないということがよくある。そういったことがよくわかる一冊だった。

 立場が違うだけで、見えている景色が全然違う。いや、見えている景色というより、自分が見たい景色、だろうか。最後の一文が爽快。

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