ヴェネツィアの映画館に住んでみたい!コルネーリア・フンケ『どろぼうの神様』
みなしごになった兄弟が、大嫌いな親戚の家を飛び出し、ドイツからヴェネツィアにたどりつく。亡くなった母親が、「翼の生えたライオンがいる魔法の町」だと話していたからだ。しかし、子供だけでやっていけるはずもない二人。ストリートチルドレンの集まる古い映画館に身を寄せることになる。そこは、「どろぼうの神様」と名乗る少年が仕切る、子供だけの王国だった。
ヴェネツィアの美しい景色や古くて狭い路地を探検し、「どろぼうの神様」たちと一緒にずるい大人をだしぬく。子供たちは「どろぼうの神様」が大金持ちの家から盗んできた品をお金に換え、生計を立てる。夜になったら廃墟の映画館で眠る。その細かな描写に、子供たちの仲間になって一緒に冒険しているような気分になった。
表紙の挿絵も含め、イラストは作者であるコルネーリア・フンケが描いている。「これぞファンタジー小説!」といった雰囲気のある絵で、物語を想像する助けになる。文章も書けて、絵も描けるなんてすごい。私は中学生の頃に本書と出会い、それから何度も読み返している。それぐらい、面白くて好きな作品だ。
「大人はよく子どものころはよかった、という。それでまた子どもになることを、夢見たりもする。でも、ほんとに子どもだったころは、いったい何を夢見ていたんだろう? なんだと思う? 早く大人になりたい、そう思っていたんじゃないかな」
この文章がとてもいい。初期ポケットモンスターのアニメで流れていたエンディングテ―マ曲である「ポケットにファンタジー」みたいでいい。
最後に明かされる「どろぼうの神様」の正体と、魔法のメリーゴーランド。最後の一ページまで楽しめる作品だった。