日本版『ダ・ヴィンチ・コード』じゃん……!伊勢谷武『アマテラスの暗号』
私は先日『聖乳歯の迷宮』という本を紹介したけど、今回紹介する『アマテラスの暗号』も、『ダ・ヴィンチ・コード』ってくらい面白かった。
ニューヨークに住む賢司は、日本人の父とは何十年も会っていなかった。その父から突然、会いたいという連絡が入る。しかし、再会の直前、父親は何者かに殺されてしまう。父が残した謎の暗号を手がかりに、賢司は日本へと旅立つ。
日本人の父親を持つ賢司は、日本のことをほとんど知らなかった。外国人の友人のほうが日本について詳しい。これって、私たち日本に住む日本人にも当てはまるよなと思う。暗号は、天皇制と神道、『古事記』や『日本書紀』について詳しくないと解けないのだが、いざ「説明してみて」と言われても私には説明できない。特に天皇制について調べたり意見しようとしたりすると、「タブーだ」と言われかねない。どうしてタブーだと思うんだろう? そういった疑問についても、本書の中で説明されている。
主人公とその仲間たちは、ゴールドマン・サックスに勤めていた超エリートたち。超庶民である私は、ゴールドマン・サックスという企業名すら知らなかったのだが、調べてみたら平均年収2000万円の金融企業だった。そんな超エリートたちが集まって暗号を解こうとするから、解き方もエリートっぽくて面白い。
登場人物たちは、それぞれの専門分野を活かして意見を交わす。神道、キリスト教、イスラム教など、「こういった観点からはこう」とか、「ここの考え方は一致する」とか、神道と他の宗教と比較して議論しているさまは、グローバルな感じがして面白かった。
特に印象的だったのが、日本は世界最長の単一王朝国家という点。こんなこと学校で習ったっけ? 第二次世界大戦後の教育で、習わないことになったのかな。本書を読んでいて、そう感じた。戦前の学生が日本についてどう学んでいたのか知りたくなった。
大昔の日本にユダヤ人がやってきて、大国を築いていったという考察はとてもわくわくした。そんなことある? と、トンデモ論かと思ったけど、この物語は実際にある文献などをたくさん参考にして書かれているらしく、そんなことあるかもと思えてくる。
作者は、日本人が忘れつつある自国の素晴らしさを思い出してほしいという想いを込めて本書を執筆したそう。教科書には出てこない日本の歴史について知りたくなった。夏の文庫本フェアとかでこの本が取り上げられたら、「日本の魅力再発見」とか帯に書かれそうだ。
もちろん、ミステリーとしても十分楽しめる。謎を解くために、主人公らは日本中の神社を参拝する。そこへ邪魔しにやってくる謎のスパイ。もしかしたら、仲間の中に裏切り者がいるかも。誰を信じられて、誰が裏切り者か。ページをめくる手が止まらなくて、上下巻合わせて600ページを一日で読んでしまった。