例のあのお方のまさかのスピンオフ作品!今村昌弘『明智恭介の奔走』
※この記事はネタバレを含みます。
今村昌弘先生の『屍人荘の殺人』を読んで、こう思われた方は多いのではないか。ええっ、メインキャストポジションの明智さんが、序盤で死ぬの!? 私はその事実が信じられずに、最後まで明智さん復活を待ち侘びていたが、とうとう彼は現れず死んだままだった。剣崎比留子シリーズの二作目、三作目も彼が復活するのではと密かに期待していたが、彼は現れなかった。実は死んでいなかったとか、謎の機関がどうにかして彼を生き返らせるという展開とか期待していたのに……。なるほど、作中に名探偵は二人もいらないというわけですね。
『明智恭介の奔走』はそのタイトル通り、明智さんのスピンオフ作品だ。『屍人荘の殺人』以前の出来事が短編集形式で綴られている。大学のミステリ愛好会でどのような事件を解いたのか、助手の葉村くんの活躍も語られている。あと、序盤に剣崎比留子さんっぽい美少女がちらっと登場し、読者を喜ばせる。
実写映画化された『屍人荘の殺人』を観たせいか、明智さんが中村倫也氏、葉村くんが神木隆之介くんで脳内に現れ、イケメン小説を読んでいる気分にもなった。ミステリーを読んでいるのに、違う意味でドキドキしてくる。「最初でも最後でもない事件」に登場する女装コスプレイヤーの葛形くんは、実写化したら誰になるんだろう。中性的な顔立ちだから、2.5次元俳優さんかな。そんな妄想を繰り広げるのも楽しかった。
「泥酔肌着引き裂き事件」では、明智さんの引き裂かれたパンツが登場する。明らかに明智さんが自分で引き裂いたんじゃんという状況なのに、本人は泥酔して覚えていない。自分の犯行を自分で推理している様子が滑稽で面白かった。自分で切り裂いたパンツを使用し、玄関のドアガードを開けたという結末だった。ドアガードを外側から開けるという展開は、ミステリーでよくあるネタだが、まさかパンツで開けるとは思いもしなかった。
私も小学生の頃、学校の女子トイレで外側から鍵をかけるといういたずらをしたことがある。『名探偵コナン』の読み過ぎで、やりたくなったのだ。何度かするうちに先生や他の生徒から「あいつが犯人では……」と怪しまれるようになり、やめた。大人になった今思うと、他人に迷惑をかけることばかりしていた気がする。そういういたずらに限って、スリルがあって面白いんだよね。
本作の明智さんも、推理小説を読み過ぎるあまり、他人にうとまれても名探偵になろうとしている。夢中になってがむしゃらに突っ走っている彼はとても楽しそうだった。おばさんの私には大学生が眩しすぎたよ。
読後、「はぁ〜、面白い殺人小説を読んだなぁ」と本を閉じたが、すぐに思い直した。あれっ、今回誰も人が死んでいなかった。人死んでないのに、面白い事件だったな。