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純文学

シリアスな現実世界を少女の妄想と共に綴る。『地球星人』村田沙耶香

 ポハピピンポボピア星人って何? あっ、『変半身』、『魔法少女ミラクリーナ』にも同じようなことが書いてあったかも。

 初めて読んだ村田沙耶香さんの本は『信仰』だった。新興宗教をでっち上げて、一人の女性を神に仕立て上げるという話にほれぼれとしてしまった。信じれば嘘も本当になるかも。いや、自分が好きなように信じる限り、嘘か本当かは関係ないのではないか。そんな風に感じさせる作品だった。

 その後、もっと村田さんの作品を知りたくて、彼女の作品を立て続けに何冊か読んだ。そのうちの一冊が、この『地球星人』だ。

 小説の内容はこうだ。両親と姉からひどい扱いを受けている主人公の少女は、自らを魔法少女だと信じることで、傷ついた心を守っていた。同じように、自らを宇宙人だと信じる従兄弟の少年と、年に一度田舎の親戚の家で会えることを楽しみに、生き延びようとしていた。

 そんな年に一度の楽しみを、ある事件がきっかけで大人たちから奪われてしまう。

 月日は流れ、大人になった主人公は、今もなお信仰を続けていた。自分は地球星人ではないから、周りのみんなと同じような考え方ができないのだ、と。地球では男女がセックスをすることで繁殖をすることが、良い行いだとされている。しかし、主人公は幼少期に起きた事件のショックで、地球星人と同じような考え方ができない。過去のトラウマに囚われ続けている彼女は、幼少期と変わらず、自分を魔法少女だと信じ続けていたのだ。

 この主人公が救われるラストになるのだろうか。そんなことを考えながら、読み進めていた。

 特に怖いと思った部分が、周囲からかっこいいと評判の塾の先生に性的暴行を受けた際、主人公が周りに相談しても、「あんなかっこいい先生からアピールされているなんて、自慢かよ」というような反応が返ってきたところ。

 「見た目が見苦しい中年のおじさん」からの暴行は「きもい」になるのに、イケメンだと「自慢」になるのが、現実でもあるなと感じて鳥肌が立った。そういった社会と自分のズレを拭いきれずに、主人公がこの地球で幸せになれる方法はあるのだろうか。

 ああ、だから主人公は「自分は地球星人ではなく、ポハピピンポボピア星人だ」と信じきることで、幸せとはいかないまでも、なんとか生き延びようとしたのか。

 本書を読むことで、普段から感じているが言語化できていなかった私と社会とのズレの、解像度が少し上がった気がした。

 このサイトのテーマは「人が死ぬ小説」。ミステリーでも、ホラーでもない本書において、誰が死ぬのか。ぜひ読んで、確認してみてほしい。

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