プラスティック
ミステリー

あなたは一体誰?他人に乗っ取られている?じわじわと怖いミステリー!井上夢人『プラスティック』

 何か読む本はないか。特に目当ての本はないけれど、ふらりと書店に立ち寄るのが好きだ。基本のラインナップをそろえているのはもちろん、その書店ならではの本を平積みで紹介されていると、読んでみたくなる。

 『プラスティック』は十年以上前の作品だ。どうして今まで話題にならなかったのかと不思議なくらい面白かった(私が気づかなかっただけで、もしかしたら話題になっていたのかもしれないが……)。平積みにして教えてくれた書店員さん、ありがとうございます。この作品は、本屋大賞の2024年発掘部門「超発掘本!」を受賞しているようだ。

 54個の文書ファイルが収められたフロッピーディスクを、順番に開いて読んでいくという形式で話が進んでいく。文書の先頭には、その文章を書いた本人の名前が記載されている。冒頭の文章に記録されていたのは、出張中の夫の帰宅を待つ主婦の向井洵子の記録だ。ワープロ(懐かしい)を打つ練習をしているという洵子だったが、自分の名前を語る第三者の存在に遭遇する。借りたはずのない図書館の本が、自宅に置いてある。夫の会社に電話をすると「あなたは奥さんではありませんね。一体誰ですか」と問い詰められる。

 誰かが自分のふりをしている。洵子はパニックになる。すると、そこに追い打ちをかけるかのように、殺人事件が起こり……。

 日常生活を楽しんでいたはずなのに、その世界が崩壊する。誰かが自分を乗っ取っているのではないかという恐怖が、じわじわと迫ってくる作品だった。

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