1Q84アイキャッチ画像
純文学

出版から十年経ってやっと読めた。『1Q84』村上春樹

 私が村上春樹さんの小説と出会ったのは、高校生の時、現代文の教科書に載っていた『レキシントンの幽霊』だ。授業で取り上げられることはなかったけれど、小説好きの私は、現代文の教科書を隅々まで読破していた。幽霊が出てくるのに、不思議と怖くなく、読みやすい語り口でむしろ幽霊が楽しそうに感じられた。家に染みついた、過去の住民の幻影のように思われたのだ。

 当時学生だった私にあまり自由に使えるお金はなく、古本屋と図書館に通って、村上春樹作品を読んでいった。どんどんハマっていった。今思うと、小説ばかり読んでいる高校生って根暗だよね。でも当時は、高校の賑やかな行事やクラスメイトより、小説の方がより身近に感じられたのだ。小説の作者が親身になって相談に乗ってくれているような気がしていた。大丈夫だよ、こういうことが辛いよね、とか。私の誰にも言えないような悩みに対し、寄り添ってくれているような気がしたのだ。

 その頃、私が村上春樹の作品を読もうとすると、どうしても過去作品ばかりになってしまった。『1Q84』は、私が『レキシントンの幽霊』を読んだ数年後に出版されたのだ。

 『1Q84』が出版された当初、とてつもなく読みたかったのだが、三冊にわたる長編を読めるほどの時間を取れない時期だった。あらゆる雑誌で刊行記念パーティーの如く取り上げられ、著名人の「村上春樹と私」というようなインタビュー記事が掲載されていた。とても読みたかった。今でも悔しい。

 月日は流れ、出版から十年ほど経過した。ようやく読めました(歓喜)思っていたより、「やれやれ」といったフレーズやパスタを茹でている描写、ジャズを聴く登場人物が少なく感じられた。前はもっといたような気がするけど、読んでから大分年月が経っているので印象強く残っているだけかな。

 学生時代、村上さんの作品を読んでいて、しょっちゅうパスタが食べたくなったものだ。パスタの茹で方まで丁寧に描写されているもんだから、自分でも作りたくなってしまうんだよね。ちなみに最近だと、アラビアータを作りました(市販のパスタソースを使ったけどね)。

 高校生時代と同様、現在不眠症に悩む私の長くて孤独な夜に付き合ってくれた物語だった。印象的だったのは、主人公が公園の滑り台の上に座って、夜空に浮かぶ二つの月を眺めるシーンだ。夜中に目が冴えてしまう私も小説の中の主人公と同じように、公園で月を眺めている気分になった。

 また、本作では、DVから逃げてきた女性たちを匿うシェルターが登場する。幻想的な物語の中で、痛々しいほどリアルだった。現実でも家族からのDVに悩む女性はたくさんいるからだ。

 公共のトイレなどに「DVに悩む女性のホットライン」が置かれているのを見かける時がある。でも実際に、そのカードに記載されてある番号に電話を掛けられる人って、被害に遭っている方のほんの数パーセントなんじゃないかな。ニュースとか、身近な人の世間話とか、日本全体に漂う空気感みたいので、そう感じてしまった。 あらすじは書こうかと思ったけど、やめた。アマゾンとか色々なサイトに記載されているし、長編すぎてうまく語ることができないのだ。どうぞご自身でこの長く、濃厚な物語を楽しんでいただきたい。

楽天ブックス
¥1,980 (2024/04/05 03:59時点 | 楽天市場調べ)
楽天ブックス
¥638 (2024/04/05 04:00時点 | 楽天市場調べ)